「ひこ孫 純米清酒」は、京急の南太田駅から近い横浜君嶋屋で購入。
基本的な情報をまとめておくと(ラベルや醸造元である神亀酒造の商品説明を参照)、醸造元:神亀酒造株式会社/醸造元所在地:埼玉県蓮田市馬込/原材料名:米(国産)、米麹(国産米)/原料米:徳島県産山田錦/精米歩合:55%/使用酵母:協会9号/アルコール分:15%/常温熟成:3年以上/日本酒度:+6/製造年月:2019.6/飲み方:熱燗◎、ぬる燗◎、常温○、冷や△。
熟成に関する醸造元のコメント:「全ての発酵過程を経て、槽で搾られたひこ孫は、蔵内で最低でも三年以上熟成させた後、瓶詰、出荷します。この熟成の過程でわずかに残されていた酒の雑味が澱となって沈殿分離し、さらに透明度の高い深い味わいへと変化します。 食中酒として幅広いジャンルの食と味のマッチングが楽しめます」
▼ 神亀酒造は江戸時代末期の嘉永元年(1848)創業。ひこ孫の生みの親である故・小川原良征社長のインタビュー。祖母との深い絆が印象深い。
「日本酒の熟成と燗への第二段階」は、「愛知の地酒、長珍 純米 阿波山田65 無濾過生原酒の燗でめいたがれいの煮つけをいただく――あるいは日本酒の熟成と燗への第二段階」で引用した古川修『世界一旨い日本酒 熟成と燗で飲る本物の酒 (知恵の森文庫)』の以下の記述に集約される。
「このようにして麹と酵母がちゃんと働き、完全発酵した酒は、周りの雑菌に冒されにくい。従って、常温で置いても、開栓して空気に触れさせても、劣化が少なく味乗りが勝って、美味しく熟成していくのである」
第三段階については、同書で紹介されているひこ孫誕生の経緯がヒントになる。大学を卒業したばかりの小川原は、日本の伝統に則った昔ながらの純米酒を造り始めたが、当時の消費者には見向きもされず、造った酒は倉庫に置かれたままになった。そして、以下のような記述がつづく。
「三年経って、小川原は倉庫に保管してあった酒を試しに飲んでみた。すると、びっくりするほどの旨い酒に変身していた。そう言えば、『古い酒のほうが新しい酒より旨い。新酒よりも古酒のほうを高く売っていた』という祖母の言葉が思い出される。(中略)その酒に三年経過の『三』と、三代経過の『三』をひっかけて『ひこ孫』と命名し、出荷を始めた。昭和四十五年のことである」
「島根の地酒、扶桑鶴 特別純米酒 H29BYの燗でふきとがんもどき、ふきと厚揚げの煮ものをいただく」や「鳥取の地酒、諏訪泉 田中農場 七割 H27BYの熱燗でせりと切り干し大根のごま和え、ふきの葉とじゃこの煮もの、ふきとがんもどきの煮もの、新じゃがと牛肉の煮ものをいただく」などでそれとなく書いたように、最近では3年や3年以上をこれまでよりも意識するようになっていて、あらためてひこ孫のエピソードを振り返ると、筆者が好む酒は3年以上寝かせてからが本当に美味しくなるのではとかなり真剣に思えてきた。ということで、もちろん例外はあるものの、新酒は3年熟成を目指し、すぐ飲むのであれば(現時点で)H28BY以前というのが、ひとつの基準になりつつある。
熱燗をちょっと超えるところまで温めたひこ孫で。先ほどの熟成に関する醸造元のコメントのなかに「透明度の高い深い味わい」とあったが、確かにきれいさという点では3年以上熟成しているとは思えない。そして燗冷ましがまた美味しい。
《参照/引用文献》
● 『世界一旨い日本酒 熟成と燗で飲る本物の酒 (知恵の森文庫)』古川修(光文社、2014年)
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