州知事誘拐事件をめぐる金の奪い合いに失業者や女性警察官が巻き込まれていく犯罪コメディ――カヨデ・カスム+ダレ・オライタン監督のナイジェリア映画『Dwindle』

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豪華キャストによる犯罪コメディ『Dwindle』(2021)を監督したのはカヨデ・カスムとダレ・オライタンのふたり。ノリウッドのヒットメーカーとして知られるカヨデ・カスムの作品としては、紹介済みの『Kambili: The Whole 30 Yards』(2020)と『Afamefuna: An Nwa-Boi Story』(2023)の間に位置する。もうひとりの監督ダレ・オライタンについては、以下の動画が参考になるかと思う。

▼ ノリウッドの監督たち:ノダシュ、ダレ・オライタン、エケイ・メイソンの対談

この動画では、(5年前なので情報としては少し古いが)ノリウッドで注目される若手監督3人が対談している。ノダシュ(アデクンレイ・”ノダシュ”・アデジュイベ)については、以前の記事で『The Delivery Boy』(2018)を、エケイ・メイソンは、『Elevator Baby』(2019)を取り上げた。『Dwindle』は、カヨデ・カスムとの共同監督なので、純粋にダレ・オライタンの作品とはいえないが、ふたりのうち脚本にもクレジットされているのはダレだけなので、作風の一端を垣間見ることはできるだろう。けっこうタランティーノには影響を受けているかとは思う。

物語は、架空のダルカワ州にある警察署で、ふたりの女性警察官、トランニ(フンケ・アキンデレ)とジュリエット(ビソラ・アイェオラ)が、ラゴスでレバノンの投資家グループと契約交渉するオトゥンタ州知事に護衛として随伴する任務を命じられるところからはじまる。その州知事は、レバノン人に自ら賄賂を要求して、産業廃棄物の垂れ流しを黙認するようなとんでもない政治家で、滞在先のホテルでハニートラップにかかり、何者かに誘拐されてしまう。

誘拐を阻止できなかったトランニとジュリエットは、副知事の指示によって政治的なスケープゴートにされ、知事誘拐の容疑で起訴され、裁判にかけられることに。黙って犯罪者にされるわけにはいかない彼女たちは、護送中に逃亡をはかり、独力で知事を見つけ出そうとする。

州知事誘拐を仕組んだのは、知事の息子ジョサイア(ティミニ・エブソン)だった。実は、知事がレバノン人と契約交渉した開発計画は、もともとジョザイアが発案し、進めていたものだったが、知事が勝手に交渉したため、レバノン人に乗っ取られてしまった。自分で取り引きができなくなったジョサイアは、多額の借金をしているギャングのオゴゴロへの返済が困難になり、48時間の猶予を与えられる。そこで、(前後の文脈からすると、誘拐や臓器売買、殺しなどを請け負う危険な存在である)ブラックシャドー(ウゾル・アルクウェ)を雇い、父親を誘拐し、開発計画を横取りしたツケを払わせる算段で、うまくいけばブラックシャドーから、報酬10%を引いた大金が口座に振り込まれるはずだった。

ところが、ブラックシャドーが自白剤を使って調べ上げても、知事の口座には7000万ナイラしかなく、ブラックシャドーへの報酬すら払えない窮地に陥る。死の淵に追いつめられたジョサイアだったが、知事の秘書が想定外の情報をもたらす。父親は1000万ドルの生命保険に加入していた。ジョサイアはブラックシャドーに、父親を殺し、死体を見つかる場所に放置するよう指示するが、そのときブラックシャドーには問題が発生していた。

▼ カヨデ・カスム+ダレ・オライタン監督『Dwindle』(2021)予告

この群像劇のなかで、軸になるともいえるのが、運が悪い男を象徴するチネドゥ(ジデ・ケネ・アチュフシ/スワンキーJKA)と、その居候でさらなる悪運を招くブタ(ブロダ・シャギ)だ。チネドゥは家賃を滞納しているため、大家に追い出される寸前の状態。その日からバイク便の仕事をはじめるはずだったが、会社の前に集まった社員たちに解雇が言い渡される。しかも、抗議活動に巻き込まれて逮捕される始末。その上、父親が肝臓病であることがわかり、さらに金が必要になる。そこでブタが、タクシー会社の社長に掛け合い、ふたりでタクシーに乗り込み出発するが、実はそのタクシー、ブタが社長を騙して盗んだものだった。

そんなわけで、チネドゥがどうすべきか頭を抱えているときに乗り込んできたのが、ブラックシャドーだった。その客は、ある場所で荷物を回収してトランクに積み、また別の場所で外に出ていった。客が戻るのを待つあいだに、ブタがシートに置かれたバッグを調べると、札束と銃が入っていた。ブタとチネドゥは一瞬、金に目がくらみ、客を残したまま車をスタートさせてしまう。優柔不断なチネドゥは、戻ることを考え出すが、そのときトランクから物音がして、開いてみるとそこにはロープで縛られた知事がいた。

本作のキャスティングは、これまで観てきた作品にもよるかと思うが、個人的に面白いと思う。ティミニ・エブソンには、裕福な家の息子のイメージがある。『Elevator Baby』(2019)や『Breaded Life』(2021)では、彼が演じる裕福で独善的な若者が、それぞれに底辺で生きる者と出会うことで自己を確立していくが、本作では、父親の裏切りがあるものの、独善的な性格が災いし自分の首を絞めていくことになる。

対照的に、ジデ・ケネ・アチュフシ(スワンキーJKA)には、はじめて主演した『Living in Bondage』(1992)の続編『Living in Bondage: Breaking Free』(2019)の底辺からのし上がろうとして自分を見失う若者のイメージがあるが、本作のチネドゥもどん底から抜け出そうとして、深刻なトラブルに巻き込まれていく。彼の立場は、本作に盛り込まれた社会的メッセージと関わっている。とりあえずチネドゥによって救い出された知事が、隙をついて逃げようとして押さえ込まれたとき、彼は自分たちが同じ国に生きる同じナイジェリア人だからといって、許しを請うが、そんな言葉が、どん底にあるチネドゥやブタの怒りを買うのだ。

ウゾル・アルクウェは、『In Line』(2017)のようなスリラーでも、『Kambili: The Whole 30 Yards』(2020)のようなロマンティック・コメディでも、肉体派の個性を放っているが、本作のブラックシャドーはあえて肉体を封印してやばい空気を漂わせている。

『Jenifa』のシリーズで国民的スターになり、『Maami』(2011)でとてつもなく逞しい母親を演じたフンケ・アキンデレと、『A Simple Lie』(2021)で、嘘をきっかけに友人や元恋人をトラブルに巻き込んでいく孤独な金持ちを演じたビソラ・アイェオラは、本作では、女性警察官としてそれぞれに別件でブラックシャドーを追っていたという設定があり、終盤でそれが生かされると思っていたが、クセのあるふたりの派手な掛け合いの影に隠れてしまった。

『Ayinla』(2021)や『Breaded Life』(2021)、『Strangers』(2022)など、個人的にカメレオン俳優だと思っているラティーフ・アデディメジも、ふたつのシーンだけだが登場していて、いろいろ贅沢なキャスティングである。