ジャーナリストのヘイミシュ・マクレイが2022年に発表した『2050年の世界――見えない未来の考え方』で、2050年に台頭が予想される国のひとつとして印象に残るのがナイジェリアだ。
マクレイが参照する国連の人口推計によれば、サハラ以南アフリカの人口は、2019年の10億5000万人から2050年には21億人と2倍になる見通しで、北アフリカを加えた総人口は13億人から25億人に増え、世界の人口の4分の1を占めるようになる。そのアフリカの国々のなかでも人口が最も多いのがナイジェリアで、2億700万人から2050年には4億人になると予測されている。マクレエの「希望のもてるシナリオ」では、そんなナイジェリアがアフリカの中核を担っていく。
「ナイジェリアと南アフリカが栄え、最も人口が多い国と最も経済規模が大きい国として、サハラ以南アフリカを牽引する。2050年には両国の経済規模はほぼ同じになる。ナイジェリアの人口は約4億人とアフリカで突出して多く、インドと中国につぐ世界3位になる。南アフリカの人口は7500万人前後だが、1人当たりGDPではナイジェリアを上回り、国民の大多数は中間層の生活を送るようになる。どちらも経済は着実に進歩し、アフリカの西部と南部を支える」
さらにナイジェリアについては以下のような記述も。
「これは貿易にかぎらず、統治への態度にも言える。ナイジェリアで特筆すべき点の一つは、オープンな政治論争が盛んに行われていることだ。国民は行政を効率化するよう強く求める。その圧力は少しずつ効いていき、目的が果たされたら、ナイジェリアは西アフリカの国々にとって希望の道しるべになる」
アフリカの大国ナイジェリアでは、映画産業も発展し、ハリウッド、インドのボリウッドにならってノリウッドと呼ばれている。マクレエは前掲書で、「ナイジェリアは起業が非常に盛んであり、それを国益にどうつなげるかが問題になる」とも書いているが、そんなナイジェリアにおける起業の一端を垣間見ることができるノリウッド映画が、カヨデ・カスム監督の『Afamefuna: An Nwa-Boi Story』(2023)だ。
『Afamefuna』は、ナイジェリアの三大民族のひとつ、イボ族の伝統になっている「イボ徒弟制度(Igbo apprenticeship system)」を題材にしている。その冒頭では、「ハーバード・ビジネス・レビュー」から以下のような記述が引用されている。
「アフリカのイボ族は、今日ではステークホルダー資本主義として知られるものを何世紀にもわたって実践してきた。イボ族の徒弟制度 (IAS) は、毎年何千ものベンチャー企業が創出されていることから、世界最大のビジネス・インキュベーターとして認識されている。イボ族や一部のアフリカ人にとって、これはコミュニティに平等と平和的共存をもたらした機能的なシステムなのだ」
この制度では、家庭が貧しく、子供に教育を施す余裕がない親が、成功したビジネスオーナーと交渉して、子供をオーナーに預ける。見習いとなった子供は、一定の期間、オーナーのもとで働き、起業家としての基本的なスキルを身に着け、卒業したら、オーナーが弟子に企業するための資本を提供したり、顧客の一部を譲ったりする。その弟子が起業に成功すると、今度は見習いを受け入れるオーナーになり、サイクルが繰り返されていく。
▼ カヨデ・カスム監督『Afamefuna』予告
『Afamefuna』は、成功を遂げたビジネスマン、アファメフナが、たくさんの客を招待して父親を追悼する行事を盛大に執り行っている場面からはじまる。その行事の真っ最中に、刑事たちが訪ねてきて、アファメフナにポールが殺害されたことを伝え、彼は警察署で事情聴取を受ける。その事情聴取に挿入されるフラッシュバックによって、アファメフナとポールの関係が明らかにされていく。
物語はアファメフナが17歳の時代にさかのぼる。彼の父親はすでに他界していて、田舎の村で育ったアファメフナは、母親に連れられて大都会ラゴスにやってくる。母親は、同じ村の出身で、ラゴスで建築資材を扱うビジネスで成功したオドグーと交渉し、アファメフナを彼に預ける。オドグーは、見習いの先輩であるポールにアファメフナの指導を任せ、ふたりは兄弟のように絆を深めていく。彼らはそれぞれに商才を発揮するが、結局オドグーは、アファメフナの卒業を認め、それに反発したポールは道を外れていく。
物語には、オドグーの愛娘アマカとポール、アファメフナの三角関係も盛り込まれ、複雑な展開を見せるが、女性のキャラクターの造形しだいでより深みのあるドラマになったかと思う。いずれにしても、「イボ徒弟制度」という題材は新鮮であり、しかも、公用語である英語とイボ語が混じりあうドラマを、イボ人のスタッフだけでつくるのではなく、ヨルバ人のカヨデ・カスムが監督するというコラボレーションになっているところも見逃せない。マクレイが予測するようなナイジェリアの未来に向かって、ノリウッドでもこうした題材や視点の映画が増えていくかもしれない。
《参照/引用文献》
● 『2050年の世界――見えない未来の考え方』ヘイミシュ・マクレイ、遠藤真美訳(日本経済新聞出版、2023年)
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● 『2050年の世界――見えない未来の考え方』ヘイミシュ・マクレイ、遠藤真美訳(日本経済新聞出版、2023年)