州知事選の不正をめぐる裁判を通して権力の腐敗を多面的に描き出すポリティカル・スリラー――イシャヤ・バコ監督のナイジェリア映画『4th Republic』

スポンサーリンク

review

ナイジェリア映画を観ていると、たまにNYSC(国家青年奉仕隊)が物語に絡んでくる。それは大学などの教育機関を卒業した若者に義務づけられている奉仕活動で、期間は1年、最初の3週間のオリエンテーションでトレーニングなどを行い、その後、それぞれの技能や専門分野などを考慮して配属先が決められる。

たとえば、トペ・オシン監督の『北へ(原題;Up North)』(2018)では、御曹司の主人公がNYSCによってラゴスからバウチ州へ送られることが転機となり、エケネ・ソム・メクンイェ監督の『Light in the Dark』(2019)では、ヒロインと親しい隣人の主婦が、家事や育児に追われたり、夫が自分の仕事で手一杯であるために、卒業後4年経ってもNYSCを終了していないことが足枷となり、それぞれに運命が変わっていく。

イシャヤ・バコ監督のポリティカル・スリラー『4th Republic』(2019)は、いきなり若い女性アミナ・トゥクル(サラトゥ・イブラヒム)が法廷の証言台に立ち、2020年3月8日の晩に起きたことを語りだすところからはじまるが、彼女の体験にもNYSCが関わっている。彼女と友人のラッキー・アメー(シフォン・オコ)は、NYSCの隊員として選挙管理官をサポートすることになり、地方自治体のひとつイコヌに送られた。そこで選挙管理官のひとりから、金を稼ぎたくないかと持ちかけられ、彼女は気が進まなかったが、ラッキーに説得され、投票所として使われた小学校に案内される。

小学校では十数人の男女が、投票用紙を書き換えたり、燃やしたりする作業をしていた。ふたりがそこに加わり、渡された荷物をミニバンに積んでいると、車でやってきた男が、責任者の女性と口論をはじめた。そこにさらに別の車が現われ、武装した男たちがおりてきて、口論のあげくにそこにいた全員を射殺した。アミナとラッキーは茂みに隠れて命拾いした。ラッキーはその茂みから動画を撮影していた。

そんなプロローグから時間をさかのぼり、架空のコンフルエンス州で行われている州知事選の終盤戦からドラマがスタートする。選挙は、現職のイドリス・サニ(サニ・ムアズ)と改革を掲げる女性候補メイベル・キング(ケイト・ヘンショウ=ナタル)の一騎打ちだったが、投票終了後にイコヌで暴力事件が発生して、スタッフなど16人が死亡したことをうけ、選挙管理委員会はイコヌでの結果を受け入れない決定を下し、イドリス・サニの勝利が確定する。イコヌは勝敗のカギを握る自治体といわれていた。

この結果に納得できないメイベルは、サニと彼の政党を相手取り、投票に重大な不正があったとして訴訟を起こす。彼女の党が雇った弁護士アフォラビ(カヨデ・アイェブシ)には、ブッキー・アジャラ(リンダ・エジオフォー)とイケチュク・オビアノ(エニンナ・ンウィグウェ)がスタッフとして加わった。ブッキーは若い女性弁護士で、冒頭のアミナの証言で、最初に車で現れ、ともに犠牲になった男シキル・アジャラは彼女の父親で、メイベル陣営の選挙対策本部長を務めていた。彼女には父親の死の真相を明らかにする目的もあった。イケチュク(以下イケ)は、メイベル陣営でシキルの部下として働き、ブッキーとは法学校時代にいっしょに学んだ仲だった。

▼ イシャヤ・バコ監督『4th Republic』予告

一方、サニ陣営では、サニと彼の腹心セント・ジェームズ(ビンボ・マヌエル)が、裁判に対策を講じるためにダンラディ(ヤクブ・ムハメド)を呼び出していた。ダンラディは、サニの最大の支援者の息子で、法学校時代にはブッキーやイケとともに学び、ブッキーと交際してもいた。セント・ジェームズはダンラディに金を渡し、ブッキーとイケに接近し、スパイするよう命じる。ということで、事件を調査するブッキーとイケが、目撃者を探し出せるか、ダンラディやセント・ジェームズが先に見つけ出し、手をうつのかが、この先の展開のカギを握ることになる。

本作では、政治、司法、警察など、いたるとこに腐敗が見られる。警察はブッキーやイケに、事件現場から姿を消した人間がいることを伝えない。金を払わなかったからだ。逆にダンラディは事件現場にいたスタッフのリストを買い、ラッキーの行方を追う。この裁判を担当するのは3人の判事だが、清廉潔白なのは主席判事のエカネム(レキヤ・イブラヒム・アター)だけで、ほかのふたりは賄賂を拒まない。セント・ジェームズは、サニを勝たせるためなら、手段を選ばない。そしてもちろん、アミナとラッキーが目撃したことも。

本作で、イコヌでの暴力事件が公になり、サニの勝利が確定した直後、サニは平気で意気消沈するメイベルの陣営を訪れるばかりか、メイベルに対して、自分の第三夫人にならないか、という屈辱的な提案までする。この時点では、ドラマにおける善悪の境界は明確であるように見える。だが、メイベル陣営も誰もが潔白というわけではなく、激しい葛藤もあるし、最後にはショッキングな事実も明らかになる。腐敗が構造化しているために、潔白を押し通すだけではどうにもならず、難しい選択を迫られるのだ。

ちなみに、以下の動画では、本作の監督イシャヤ・バコと、女性候補メイベル・キングを演じたケイト・ヘンショウが、映画で社会を変えていくことについて語り合っている。

▼ 監督イシャヤ・バコと女優ケイト・ヘンショウの対話「映画で社会変革を推進する」

動画のなかでケイト・ヘンショウは、社会変革を促す映画の例として、イシャヤ・バコ監督の本作とともに、アキン・オモトソ監督の『The Ghost and the House of Truth』(2019)を挙げている。参考のために以下にその予告編を貼っておく。

▼ アキン・オモトソ監督『The Ghost and the House of Truth』(2019)予告