ナイジェリア映画『Light in the Dark』(2019)は、それまでTVシリーズや短篇を手がけてきたエケネ・ソム・メクンイェ監督の長編デビュー作だ。2作目の『One Lagos Night』(2021)は以前に観たことがある。大卒ながら仕事がなく、借金があり、恋人に捨てられ、大家から立ち退きを迫られ、母親が入院という八方塞がりの主人公エヒズ(イッポンウォサ・ゴールド)が、ルームメートのタヨ(フランク・ドンガ)と、金持ちの留守宅に強盗に入るが、主が在宅していたばかりか、武装強盗団とも鉢合わせしてしまうという犯罪コメディだった。
デビュー作も同系統かと思いきや、まったく違うシリアスでスリラーの要素もあるドラマだった。その導入部は異民族間の結婚という物語の起点を描くプロローグと見ることもできる。
主人公は、交際中のヨルバ族のジュモケ(リタ・ドミニク)とイボ族のエメカ(カル・イカーゴ)。冒頭では、ジュモケの母親(ジョケ・シルヴァ)が食欲もなく横になっている。娘のジュモケはこれから飛行機で、エメカの実家があるナイジェリア南東部、エヌグ州に向かおうとしている(そこは、イボ族の伝統が物語に盛り込まれた『LIONHEART/ライオンハート』の舞台でもあった)。母親は、娘は美しくてお金もあるのに、どうしてヨルバ人の夫が見つからないのかとグチっている。
一方、エヌグ州の実家では、エメカが母親(ンゴジ・ンウォス)に、ジュモケを迎えに空港に行くと伝えて家を出る。すると母親はすぐに誰かに電話をかける。エメカが戻り、母親にジュモケを紹介すると、そこにもうひとり、イフェオマ(ビンボ・アデモイェ)という若い女性が現われ、ジュモケに挨拶する。エメカの姉や妹ではないらしい。エメカとジュモケがふたりだけになると、ジュモケが、あの人がイフェオマなのねというように、彼女はエメカから話を聞いていたことがわかる。
のちにもっとはっきりしてくるが、イフェオマはエメカの幼なじみで、学生時代はかなり親しかったらしい。母親は勝手にイフェオマに電話し、彼女を呼び寄せた。その行動は、彼女が息子の相手にイボ人の女性を望んでいることを示唆している。
ここまでの流れは、ふたりの結婚に関して両家が揉めることを予感させるが、ジュモケが不安を覚えながらもエメカのプロポーズを受け入れるところでプロローグは終わり、物語は11年後に移る。エメカとジュモケは、愛娘アダエゼと3人でラゴスの閑静な住宅地に暮らしている。ジュモケもビジネスをはじめ、仕事に追われる一方で、不妊治療も受けているらしい。義母は仕事をする彼女に不満で、早く孫息子を産むようプレッシャーをかけてくる。
そんなとき、この一家の家が強盗に襲われ、ジュモケがレイプされてしまう。ジュモケはエメカが自分を守れなかったことにも深く傷つき、夫婦の間に亀裂が入り、家族が崩壊する危機に直面する。
▼ エケネ・ソム・メクンイェ監督『Light in the Dark』予告
この事件は、異民族間の結婚となにか関係があるのか。ジュモケの母親は、イボ人の若者たちは夜になると危険になると語る。ジュモケが娘を連れて実家に戻ったあと、エメカの前に結婚式以来会っていなかったイフェオマが現われ、ふたりの距離が縮まっていくように見えるのも、状況を複雑にする。事件の前に、エメカの母親が実家にきた孫娘アダエゼに、おじいちゃんが内戦のときにいかに勇ましく戦ったのかを語って聞かせたというエピソードも思い出される。
しかし本作には、それとは別の問題も盛り込まれている。ラゴスで暮らすようになったジュモケは、隣人のアミナ(キキ・オメイリ)と親しくなり、頻繁に会ったり、連絡を取り合ったりしていた。そのため本作では、ふたりの家庭がさり気なく対比されている。アミナは夫のサディク、息子のアフメドと暮らしている。アミナもジュモケのようにビジネスをはじめたいと考えているが、実情はそれどころではない。
見逃せないのは、NYSC(国家青年奉仕隊)の問題だろう。トペ・オシン監督の『北へ(原題:Up North)』では、海外留学を終えて帰国した主人公バッシー(バンキー・ウェリントン)が、NYSCで奉仕するためにバウチ州に送られるように、大学を卒業した人間には必須の奉仕活動が課せられる。ところがアミナは、家事や育児に追われたり、夫が自分の仕事で手一杯であるために、卒業後4年経ってもNYSCを終了していないという。それは中流としての生活が困難になりつつあることを示唆する。
エネケ・ソム・メクンイェ監督は、異民族間の結婚だけでなく、浮き沈みの激しいラゴスというメガシティで不安定な生活を余儀なくされる中流階級のダークサイドにも目を向け、それが意外な展開に結びついていくことになる。
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● 「ナイジェリア、イボ族のふたつの伝統:カヨデ・カスム監督の『Afamefuna』とジェネヴィーヴ・ンナジ監督の『ライオンハート』に描かれる”Nwa-Boi”と”Umu-Ada”の比較」
● 「ラゴスから北へ向かうことで人生が変わる2本のナイジェリア映画、アソーフ・オルセイ監督の『Hakkunde』とトペ・オシン監督の『北へ(原題:Up North)』の比較」
● 「マココ、コンピュータ・ビレッジ、ダンフォ、エコ・アトランティックなどから、ナイジェリアのメガシティ、ラゴスの現在と未来を展望する――ベン・ウィルソン著『メトロポリス興亡史』」