アフリカのコンゴ民主共和国東部、イトゥリ州を中心に感染が拡大しているエボラウイルス病。その死者が1000人を超えたときには、2014年に西アフリカで発生したエボラのエピデミックと比較するコメントが目立った(ちなみに現在の死者数は、BNO Newsによれば、8月1日時点で1623人になっている)。
たとえばDW Newsでは、マイケル・オクウが、WHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言してから2か月が経ち、すでに1000人以上が亡くなっている。これまでで最悪とされる2014年の西アフリカにおけるエピデミックでは、感染拡大の速度ははるかに遅く、死者数が1000人に達するまでに約8か月かかったというようなコメントをしていた。
だがこれは、WHOの宣言からの期間であって、稀なエボラウイルスであるブンディブギョ株がいつ出現し、感染がはじまったのかによって、感染の速度も大きく変わってくる。
前の記事で取り上げたポール・ファーマーが共同で設立したパートナーズ・イン・ヘルスの主任研究者KJ・スンは、ニューヨーク・タイムズが作成したこれまでのエボラウイルス病の感染状況を比較するグラフを使って、今回の流行を説明している。彼は、今回の流行が示す垂直に近い急上昇は、ウイルスの感染力がより強いというわけではなく、病原体を特定するまでに長い時間がかかったためであり、実際に感染がはじまったのは、流行が宣言された5月ではなく4月、あるいは3月かもしれないと推測していた。
しかし、「Science」誌が入手した資料によれば(2026年7月30日の記事「EXCLUSIVE: Congo’s Ebola epidemic started at least 4 months before it was detected」参照)、感染は病原体が特定される少なくとも4か月前からはじまっていたらしい。調査チームは、流行の震源地とされるモンブワルとその周辺地域で、看護師や医師、生存者などの関係者、約100人に聞き取りを行い、1月中旬から5月15日までのあいだに、計500件以上の疑い例を確認したという。そして、病原体が特定されるまでの4か月のあいだに、感染は、州都ブニアを含むイトゥリ州全域に広がっていた。
そんな状況に加え、前の記事で書いたように、病原体が特定されてからは、当局や医療従事者に強い不信感をもつコミュニティの反発や抵抗があり、封じ込めは困難を極めている。アフリカCDCの2026年7月30日のブリーフィングによれば、感染の中心地イトゥリ州では、新規感染者の80パーセント以上が、既知の接触者と結びつかず、死者の60パーセント以上が、治療センターではなく、その外のコミュニティで亡くなっているというのだ。接触者の追跡や隔離に関するこの危機的な数字は、コミュニティの信頼を得られていないことを如実に物語る。
前の記事でも触れたが、ポール・ファーマーが『熱、諍い、ダイヤモンド』で書いているように、2014年の西アフリカにおけるエピデミックでは、「ケアよりも管理というパラダイム」を一方的に押し進めることで、コミュニティの抵抗にあい、感染の拡大を招いた。同書では、封じ込めの失敗が以下のように綴られている。
「8月下旬には、世界の疫病対策の専門家の多くが、質の低い医療と封じ込めの失敗を結びつけるようになった。そのなかの1人、アメリカ人の医師は、天然痘対策のプレイブックを使って長年現地で活動してきたが、個人的な会話のなかで、この議論を明確に説明してくれた。『以前のエボラの流行では、公衆衛生の担当者は、濃厚接触者リストに全員が記載されていることを確認できれば、死亡率が100%に近づいてもあまり気にしなかった。しかし、エボラが都市部で流行している今、彼ら(仲間である疾病対策の専門家たち)は、人々をシステムに取り込むためには、医療の質を向上させる必要があることを認識している』。彼は秘密めいた口調で私にメッセージを伝えようとしてくれた。
世界の公衆衛生当局は、自分たちが闘いに負けていることを認めざるをえなかった。春から夏にかけて行われた、適切なケアなしでの隔離、という対策が裏目に出てしまったのだ。最も被害の大きかった3か国の市民は、これらの対策に怯え、9月までに多くの抵抗と妨害を受けた結果、病人を隔離したり、確定した症例の接触者を追跡することが困難になり、多くの地域で不可能になった。接触者の追跡は難しい」
今回のエボラ・アウトブレイクでは、失敗を教訓として、公衆衛生当局が、コミュニティに配慮し、コミュニケーションをとろうとしているように見えるが、ファーマーが徹底的に掘り下げてみせたように、住人の不信感の根は深く、それを払拭するのは容易ではないだろう。
《参照/引用文献・記事》
● 「EXCLUSIVE: Congo’s Ebola epidemic started at least 4 months before it was detected」by Kai Kupferschmidt (Science, 30 JUL 2026)
● 『熱、諍い、ダイヤモンド』ポール・ファーマー著 岩田健太郎訳(メディカル・サイエンス・インターナショナル、2022年)
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● 『熱、諍い、ダイヤモンド』ポール・ファーマー著 岩田健太郎訳(メディカル・サイエンス・インターナショナル、2022年)
