ザワークラウトなど野菜を発酵させるとき容器のなかではなにが起きているのか、発酵がたどる3つの段階をわかりやすく説明した動画が勉強になった

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キャベツと塩だけでザワークラウトを仕込んだとき、その容器のなかではなにが起こっているのか。発酵リバイバリスト、サンダー・エリックス・キャッツは『サンダー・キャッツの発酵教室』で、ザワークラウトについての記述の最後に、ウィスコンシン大学の食品化学のクラスで行われたザワークラウトの発酵のプロセスに関する実験の結果を引用していた。

「(前略)微生物群の遷移は、微生物の成長培地であるザワークラウト液のpHに主に左右される。まず、発酵をスタートさせるのは大腸菌だ。我われが研究の対象としたザワークラウトには、クレブシエラ・ニューモニエ、エンテロバクター・クロアカなどの大腸菌が含まれていた。酸が生成されると、リューコノストック属に、より適した環境が即時に整う。リューコノストック属の菌株がヘテロ型乳酸発酵を行なうため、大腸菌の割合が減少し、この段階では酸の生成にともなって多くの炭酸ガスが生じる。pH値が低下するにつれ、ラクトバチルス属の菌株がリューコノストック属の菌株を引き継いでいく。(ラクトバチルス属に代わって、ペジオコックスが発生することもある)。つまり、ザワークラウトの発酵の完遂には、pH値の低下によって生じる、おもに3種のバクテリアの遷移が大きく関わっているのである。
ウィスコンシン大学マディソン校 細菌学科 ジョン・リンドクイスト氏」

この実験結果は、4、5年前にも記事で取り上げたことがあるが、内容は興味深いと思えるものの、研究者ならではの記述はわかりやすいとはとてもいえなかった。

いまなぜそんなことを思い出したかというと、この実験結果を誰もがわかるように噛み砕いて説明している動画にたまたま出会ったからだ。動画に登場する案内人は、ザワークラウトで発酵に目覚めてから12年以上発酵に情熱を注いできたAdrienna女史。タイトルにある「重要な3つの段階」は、この実験結果にある「おもに3種のバクテリアの遷移」とだいたい同じことを意味しているが、実際にザワークラウトをつくりつづけてきた人の説明はわかりやすい。

▼ 発酵のプロセス:野菜の発酵における重要な3つの段階

ではまず、発酵の第1段階。0日目から2日目にかけて。キャベツなどの野菜は、空気を押し出すように容器に詰め込まれ、野菜から出た水分や足した塩水に覆われるが、そこにはまだわずかな空気が残っているため、酸素を利用する微生物が最初に繁殖する。通常、それらの微生物は望ましくない病原体だが、生存のためにそこに残っている空気を使い果たす。その結果、環境は好気性から嫌気性へと変わり、最初に繁殖した微生物はもはや生存できなくなる。それらの病原菌が死滅すると、次の発酵段階がはじまる。

第2段階。2日目から5日目にかけて。環境の変化によって、リューコノストック属の微生物が繁殖する。リューコノストック属は嫌気性で耐塩性があり、乳酸と酢酸という2種類の酸を生成し、pH値を急速に低下させ、望ましくない病原菌の死滅を促す。上記の実験結果に出てきたヘテロ型乳酸発酵とは、乳酸だけでなく、酢酸、エタノール、二酸化炭素なども生成することを意味する。この動画では第2段階で発生する二酸化炭素が塩水(つけ汁)を押し上げ、オーバーフロー(溢水)を引き起こすことがあるので、タオルや皿で水分を受け止めることを勧めている。

これは実際にザワークラウトをつくっている人ならよくわかるはず。容器の上のほうまで刻んだキャベツを詰めてしまうと、この段階でつけ汁が溢れてしまうことになる。CO₂は多くの乳酸菌の成長を刺激し、第3段階の環境を準備する。リューコノストック属は、乳酸と酢酸を生成することで、生存が困難になるまで酸性度を高め、第3段階に入ると死滅していく。

第3段階。5日目以降。死滅していくリューコノストック属に代わって、ラクトバチルス属が生成され、繁殖していく。ラクトバチルス属は嫌気性で、耐塩性で、耐酸性であるため、発酵の残りの期間、繁殖する。このラクトバチルス属が生成する乳酸によってpH値は低下をつづけ、pH値4.5を下回ると(理想はpH値3~4.0とのこと)、酸性を好む微生物以外のほとんどの微生物は生育できなくなり、おいしく安全にいただけるようになる。

冒頭に引用した実験結果の記述には、モヤモヤしたものが残っていたが、この動画でかなりスッキリした。こちらはキャベツと塩を容器に詰めるだけなのに、非常によくできたシステムだと思う。ところで、筆者はザワークラウトを仕込むときに、その前に仕込んだザワークラウトのつけ汁を少しだけスターターとして足しているが(サンダー・キャッツがそんなことを書いていた)、第3段階の環境のつけ汁を第1段階に投入するのには、やはり効果があるのだろうか? 宿題にしておこう。

《参照/引用文献》
● 『サンダー・キャッツの発酵教室』サンダー・エリックス・キャッツ 和田侑子/谷奈緒子(ferment books、2018年)




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