キャベツと塩だけでつくるザワークラウトの微妙な風味の違いと複雑な発酵のプロセスについて――『サンダー・キャッツの発酵教室』を参考に

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“発酵リバイバリスト”を名乗るサンダー・エリックス・キャッツの本に触発されて、自家製ザワークラウトを常備するようになったことは、以前の記事「『サンダー・キャッツの発酵教室』に触発されて、キャベツと塩だけでできる自家製ザワークラウトづくりにはまり、常備するようになった」で書いた。

2度目に仕込んだザワークラウト

こちらが2度目に仕込んだザワークラウト。材料は1度目と同じでキャベツと塩だけ。つくるときに、キャベツのいちばん外側の葉を取っておいて、円形になるようにたたんで落とし蓋として使っている。

キャベツからかなり水分が出ているように見えるが、これには説明が必要だろう。側面からはわかりにくいが、煮沸消毒して水を入れたジャムの瓶を重しにしているので、そのぶん漬け汁が上まできている。ただし、重しをとってもキャベツが完全に浸かるくらいの水分は出ていて、この漬け汁のなかでキャベツは腐ることなく発酵するという。

煮込みハンバーグと自家製ザワークラウト

フードプロセッサーでつくった煮込みハンバーグと
最初につくったザワークラウト

はんぺんのはさみ焼きと自家製ザワークラウト

はんぺんのはさみ焼き(チーズと大葉)と
2度目に仕込んだザワークラウト

この2度目に仕込んだザワークラウトは最初のものとは少し風味が違うような気がする。たとえば、日本酒にはセメダインのような香りを含むものがあるが、2度目のザワークラウトにはそれに似た風味も感じる(セメダインを例にあげるとあまりおいしそうに聞こえないが、決してまずということではない)。

この違いから思い出したのが、『サンダー・キャッツの発酵教室』のザワークラウトについての記述だ。その最後に、ウィスコンシン大学の食品化学のクラスで行われたザワークラウトの発酵のプロセスに関する実験の結果が引用されている。

「ザワークラウトの発酵には、一切のスターター菌が使用されないことから、天然発酵とみなされる。キャベツの葉の常在菌には、適切な発酵を促す微生物が含まれる。適切な発酵とは、保存性と味覚を向上させるものをいう。微生物群の遷移は、微生物の成長培地であるザワークラウト液のpHに主に左右される。まず、発酵をスタートさせるのは大腸菌だ。我われが研究の対象としたザワークラウトには、クレブシエラ・ニューモニエ、エンテロバクター・クロアカなどの大腸菌が含まれていた。酸が生成されると、リューコノストック属に、より適した環境が即時に整う。リューコノストック属の菌株がヘテロ型乳酸発酵を行なうため、大腸菌の割合が減少し、この段階では酸の生成にともなって多くの炭酸ガスが生じる。pH値が低下するにつれ、ラクトバチルス属の菌株がリューコノストック属の菌株を引き継いでいく。(ラクトバチルス属に代わって、ペジオコックスが発生することもある)。つまり、ザワークラウトの発酵の完遂には、pH値の低下によって生じる、おもに3種のバクテリアの遷移が大きく関わっているのである。

ウィスコンシン大学マディソン校 細菌学科 ジョン・リンドクイスト氏」

これを読むと、保存容器のなかで起こっている実に複雑なプロセスに驚き、感動を覚える。そして、これだけ複雑なプロセスを経てザワークラウトが完成しているのであれば、たとえキャベツと塩だけでも様々な風味が生み出されるのではないかと思えてくる。

《参照/引用文献》
● 『サンダー・キャッツの発酵教室』サンダー・エリックス・キャッツ 和田侑子/谷奈緒子(ferment books、2018年)





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