モート・ローゼンブラム 『オリーヴ讃歌』 第5章 「怒りのオリーヴ」からのメモ

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今回はモート・ローゼンブラム『オリーヴ讃歌』の第5章のまとめである。そのタイトルは「怒りのオリーヴ」。どうやらスタインベックの『怒りの葡萄』を意識したタイトルであるようだ。(※本書が1996年の著作であることは頭に入れておいていただきたい。)

本章の内容は、前章に登場したスペインオリーヴ油輸出振興会(ASOLIVA)の会長ファン・ビセンテ・ゴメス・モヤが抱えていたジレンマと関わりがある。彼は、スペインでは最高級のオイルを作っているのに、消費者にひどく過小評価されていて、スペインは知られざる巨人だと考えていた。大市場アメリカでは、オリーブ油といえばイタリアで、スペインはほとんど参入することができない。でも実際には、イタリアは常にオリーブ油不足に悩まされて輸入に頼り、スペインの余剰オイルがイタリアへと輸出されていた。

『オリーヴ賛歌』 モート・ローゼンブラム著

本章では、オリーブ生産の中心地、スペイン・アンダルシア地方ハエン県を舞台として、スペインとイタリアの複雑で不条理な競争関係が掘り下げられていく。

著者のローゼンブラムはなぜこのテーマを扱うのにこの土地を選んだのか。章の後半に、「ハエン産の九九パーセントはイタリアに出荷される」という記述がある。本章は生産者が収穫したオリーブを運びこむエピソードから始まり、その後に以下のような記述がつづく。

「これらのオリーヴは、世界的に売れている有名なイタリア産ブレンドオイルの原料となる」

「こうしたオイルはあらかたイタリア企業に買い上げられる。イタリアはギリシア、チュニジア、トルコからもバルク買いし、ブレンドして「イタリア産」のラベルを貼る。ブランドオイルの多くは、イタリア系コングロマリットが所有するスペインの大手瓶詰め業者へ送られる」

こうしたイタリア支配に対して、生産者が、先述したゴメス会長と同じような不満を持つのは当然だろう。また、そんな状況には制度の問題もあるようだ。

「ハエン県のオリーヴ生産者の間では、このような仕組みに対する不満が渦を巻いている。ハエン県だけで、世界のオリーヴ油の約十分の一を生産している。オリーヴ畑が集中するマルトス周辺においては、イタリア支配は農家の名誉に関わる問題である。一部のオイルは製造元の名で瓶に詰めて販売するが、ほとんどは産地すら明示せずにバルクで輸出されている。欧州連合(EU)の規則では、ヨーロッパ共同市場の中でなら、ある国でオイルを買って別の国に運びこんでも何ら制限はない」

我が家のオリーブの1本、シプレッシーノ

しかし、ローゼンブラムが、組合の採油工場に納品のために並ぶ農民の人々に直接、話を聞こうとすると、彼らは話をそらしたり、口を閉ざしてしまう。誰もおおっぴらにイタリアを非難しようとはしない。ハエンの生産者が自分たちの名前でオリーブ油を瓶詰めし、直接海外市場に売れるよう支援する団体も設立されてはいる。その団体を率いる若者ヘスス・クエルバス・ガルシアは、人々を団結させようと努力しているが、うまくいかないという。農家は、天候が安定し、収穫が順調であるかぎり、それなりに満足できる収入を得られるらしい。だから、あえて現状を変えようとはしない。自由市場で競争していく足場を持っていなければ、そうするしかないのかもしれない。

ただし、誰もが十分な収入を得ているわけではない。ローゼンブラムが出会ったサン・ミゲル教会の神父アントニオの懸念が以下のように表現されている。

「オリーヴが富をもたらしているのは確かだが、ウベダ周辺はひどい仕事不足に悩まされており、少数の大地主が多くの広大な土地を所有しているのも気がかりだという」

ここで、章のタイトルから筆者が連想した『怒りの葡萄』が関わってくる。神父の話を聞いたローゼンブラムが感じたことが以下のように綴られる。

「まさにスタインベックの世界だ。ヨーロッパにおける新たな封建制といってもいい。三か月間、日曜も休まず懸命にオリーヴを摘んで得られる稼ぎは二千七百ドル。ここから経費などを差し引き、生活費も出さねばならない。不作の年に備えた蓄えもない。地主の方は、二十万とはいかなくとも、まあ五万本ぐらいの木を所有しているとして、まずまずの年なら四十万キロのオイルがとれるだろう。労賃や農薬、搾油の代金もばかにならないとはいえ、年に百万ドル近い収益があれば、不在地主にとって悪い商売ではあるまい」

《参照/引用文献》
● 『オリーヴ讃歌』モート・ローゼンブラム 市川恵里訳(河出書房新社、2001年)





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