ナイロビでどん底から這い上がるために窃盗グループと劇団を往復する苦悩が最後の瞬間に集約される――デヴィッド・”トッシュ”・ギトンガ監督のケニア映画『Nairobi Half Life』

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デヴィッド・”トッシュ”・ギトンガ監督の『Nairobi Half Life』(2012)は、最も成功したケニア映画の1本といわれる。本作は、アカデミー賞外国語映画賞のケニア代表に選出された(最終候補には残らなかった)。また、プロデューサーに、『ラン・ローラ・ラン』や『クラウド アトラス』で知られるドイツ人監督トム・ティクヴァがクレジットされていることにも注目すべきだろう。本作は、アフリカの映画人を育成するティクヴァの映画ワークショップ「One Fine Day」の支援を受けている。

主演は、直前の記事で取り上げたニック・レディング監督のケニア映画『Ni Sisi』(2013)にも出演していたジョセフ・ワイリム。『Ni Sisi』の前年に出演した本作の演技によって、ダーバン国際映画祭の最優秀男優賞に輝いている。

ケニアの村に暮らし、映画の海賊版DVDを売ってわずかな収入を得るムワス(ジョセフ・ワイリム)は、演技に熱中し、俳優になる機会を求めている。彼が巡業で村を訪れた劇団の団員に相談すると、ナイロビにくればエージェントを引き受けるといわれ、1000kSh(ケニアシリング)を要求される。ムワスは所持金の全額500KShを渡し、残りはナイロビの劇場に持参すると約束する。ムワスの従兄弟のギャングは、ナイロビに向かう彼に高価な通信機を委ね、インド人が経営する店に届けるように指示する。

バスでナイロビにたどり着いたムワスは、右も左もわからずに少し歩いただけで災難に遭う。4、5人の男たちにいきなり抑え込まれ、まさに身ぐるみはがされるのだ。つづいて、通りを逃げてくる集団に飲み込まれ、追ってきた警察官に拘束され、留置場に放り込まれる。さらに、そこにたむろするこわもての連中に威圧され、汚物まみれのトイレを、悪臭に嘔吐しながら掃除することになる。ムワスはその留置場で、窃盗グループを率いるオティ(オルウェニャ・マイナ)に出会う。

留置場を出たムワスは、オティのグループに加わる。彼らが狙うのは、車のライトなどの部品で、駐車した車から手際よく奪う。その一方で彼は、ナイロビで活動する劇団のオーディションを受け、役を得る。窃盗グループと劇団というふたつの世界を往復するムワスは、強盗でも演技力を発揮する。部品を積み、カバーをかけたリヤカーを引いていた彼は、パトカーに気づくと、強盗などできそうにない間抜けな男を演じ、切り抜ける。盗品の買取屋と交渉するときには、ボディランゲージで相手の腹を読み、巧みに値をつり上げる。ムワスは、オティと仲間から一目置かれるようになると同時に、オティの恋人で娼婦のアミナ(ナンシー・ワンジク・カランジャ)に想いを寄せるようになる。

▼ デヴィッド・”トッシュ”・ギトンガ監督『Nairobi Half Life』(2012)予告

ところが、ある出来事をきっかけに、ふたつの世界の危ういバランスに限界が訪れる。ムワスがナイロビに旅立つときに通信機を預けた従兄弟のギャングが、彼の前に現われ、損失を埋めるためにより危険な車の窃盗を強要する。ムワスはオティと仲間を説得し、彼らは銃を手に入れて、車の窃盗を繰り返していく。だが、盗難車を買い取るギャングや犯罪に目をつぶる悪徳警官のあいだで、利益の分配をめぐって対立が起こり、死者が出る。ムワスとオティ、その仲間の5人は、悪徳警官によって廃墟に監禁され、過去の未解決事件の罪を着せられ、処刑される運命が待ち受ける。

本作のクライマックスでは、ムワスにとって世界は、死を待つ地獄の廃墟と本番の舞台というふたつの空間だけになる。そのふたつの点が、ティクヴァの『ラン・ローラ・ラン』を想起させるアクションで結ばれ、ムワスの苦悩が演技に集約されることになる。