このブログでは、ガーデニングや食材、料理、自然、エコロジーなどに関わりのある本も取り上げていきたいと思う。ただ書評としてまとめるのはたいへんなので、章ごとにメモをとるようなかたちで紹介していくことにする。
ガーデニングで筆者が熱を入れているのがオリーブなので、最初はオリーブ関連の本を取り上げる頻度が高くなりそうだ。
最初に取り上げるのは、モート・ローゼンブラムの『オリーヴ讃歌』。プロヴァンスに住み、オリーブに開眼したアメリカ人のジャーナリストが、その奥深い魅力を丹念な取材をもとに掘り下げていく紀行文である。
第一章のタイトルは「オリーヴの世界」。その多様な魅力が列記されていく総論的な内容で、まずは「かつてはオリーヴになど何の興味もなかった」著者が、その世界に引き込まれ、たちまち崇拝者に早変わりした「思いもよらぬ成り行き」について。
ローゼンブラムは1986年に、プロヴァンスに岩だらけの“ジャングル”5エーカーを購入し、その土地に「木苺の茂み、黄色い花をつけるエニシダ、オークの古木、黒焦げの梁がむきだしになった農家の廃屋などといっしょに、伸びすぎて枯れかかった二百本のオリーヴの木がついてきた」。その後の展開については第二章で詳しく語られる。
筆者がオリーブに惹かれるのは、人間との付き合いが長く、文化や歴史と深い関わりを持っているからだ。オリーブほどではないが、同様の理由でセージにも惹かれる。「先史時代から今日に至るまで、オリーヴは地中下位文化の隅々にまで浸透してきた」。オリーヴは、ユダヤ人、キリスト教徒、イスラム教徒にとって、神聖なものであり、知恵と豊穣と平和の象徴であるという。
そうなると気になるのが、その起源だ。「紀元前六〇〇〇年頃かそれ以降に、小アジアの農民が、野生のオリーヴを接ぎ木や挿し木で殖やし、栽培できることを発見した。ギリシアの島々でもオリーヴを栽培した。古代エジプト人もオリーヴを崇め、オリーヴの起源はナイル・デルタだという説もある」。
紹介される数字も興味深い(但し、本書が書かれたのは1996年なので、新しいデータではない)。「現在、世界には約八億本のオリーヴの木立がある。中国は二千万本で、フランスの四倍にあたる。アフリカの奥地、アンゴラにも小さなオリーヴの木立がある。オリーヴは六大陸に見られるが、九〇パーセントは地中海沿岸で栽培されている。オリーブ油といえばイタリアを連想するが、スペインの方が木の数は多い――イタリア人が欧州連合(EU)の補助金をもらうためにでっちあげた分を差し引けば、はるかに多い。しかもラベルにイタリア産としるされたオリーヴ油は、実際にはスペイン、ギリシア、トルコ、チュニジア産であることが少なくない」。
オリーヴ油の基本的な分類はぜひ頭に入れておきたい。「エクストラヴァージン・オリーヴ油とは、遊離脂肪酸(主としてオレイン酸)の酸度が一パーセント以下のものをいう。そのうえ、味、香り、口あたりも一級でなくてはならない。ヴァージン・オリーヴ油は、めったに市場では見かけないが、酸度が二パーセント以下のものを指す。いずれも「一番搾り」あるいは「ゴールドプレス」という搾油法で、収穫後すぐに搾ったオイルである」。「よく「ピュア・オリーヴ油」と表示されている、ただの「オリーヴ油」は、揚げ物や炒め物向きの精製油である。蒸気と化学溶剤とで「精製」し、風味と香りをつけるために上質のオイルとブレンドしてある」。
オリーヴには圧搾用と食用があるが、食用といっても「生の実は舌がちぎれるほど苦い」のだそうだ。だから様々な保存法が生まれる。それは文化によって千差万別で、「モロッコだけでも百通りのやり方がある」という。
本章では、ローマの博物学者プリニウスの『博物誌』、オルダス・ハクスリーのエッセイ「オリーヴの木」、ロレンス・ダレルの著作、ゴッホやセザンヌ、ルノワールといった画家の言葉などを通して、オリーヴの魅力が浮き彫りにされていく。
そして最後にヨーロッパ人とアメリカ人のオリーヴ観が対比される。アメリカ人にとってオリーヴは農作物の一種に過ぎず、漫画のキャラクターの名前にしてしまったが、“マティーニ”というカクテルを生み出すことによって、オリーヴの歴史において独自の地位を獲得することになった。ここではマティーニの起源とされるふたつのエピソードが紹介されている。
《参照/引用文献》
● 『オリーヴ讃歌』モート・ローゼンブラム 市川恵里訳(河出書房新社、2001年)
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